『狂戦士』

2/2
前へ
/61ページ
次へ
 堕ちる。狂の世界。  狂った本能と荒ぶる精神の赴くままに敵を葬り去る鮮血に染まった戦士。私という存在が深き闇の底へ堕ちていく。求むは快楽。目的など当の昔に消え去った。私にあるのは『狂』という地獄だけ。  私は、一般兵だった。雑兵と言っても過言ではない地位にいた。当時は、この戦争という『狂』に染められた世界を変えたい一心で、神の子率いるアザルト連邦の兵士に志願した。  初陣は悲惨だった。震える手を必死に抑え、戦場を走った。敵を倒す傷だらけの仲間。敵の手に掛かり倒れる仲間。志願した当時に知り合った戦友も先程倒れた。 「進め! 足掻いた者だけが救われる!」  将軍の声が聞こえた。  私は最後の希望を胸に秘め、戦場を駆け抜ける。敵も必死だ。この砦を落とされたら国の中枢に『チェックメイト』を掛けられることになるからだ。  襲い掛かってきた敵をこの手に持つ、この剣で斬った。精神的に追い詰められていたせいか、もしくは心が壊れないための逃避か、私はこの『人を斬った』感覚を快楽として認識してしまった。  私が出陣するあらゆる戦場で作戦なぞ二の次にして戦場を駆け、敵を斬るという『狂』に呑まれたのは、その時から始まった。  更なる快楽を求めるため、武器を剣から大剣へと変えた。これで、更に多くの敵を斬る快楽を得ることが出来ると、狂った本能は吼える。  ああ、堕ちて往く。今日もまた、敵を倒すという快楽だけを求める『狂』を持った戦士として戦場を走る。  大剣を振り回し、敵を屠(ホフ)る。鮮血で真っ赤に染まった大剣が狂った本能を更に掻き立てる。この『狂』から救い出してくれる者が現れるのを最後の希望としてその者は戦場に出没する。  その容赦無い相手を屠る姿に、敵と味方から『狂戦士』と呼ばれた。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加