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『幸せだったからよ。私はね、泉。憎しみのあまり、あの幸せだった日々まで否定したくなかったの』
そして、それに答える声は、やはり自分がよく知っている、懐かしい女の声だ。
誰だったのだろう、この人達は。
あの、夕暮れの井戸で話していた、少年と少女。
姿の見えない、男と女。
『お父もお母も、鎌倉が憎くないの?』
『大事な人達がいるから』
『そうだな』
『それは誰?』
『まずは、大姫様。そして、政子様』
『それから、私達の面倒をよく見てくれた、阿古夜さん達』
穏やかに、話される言葉。
憎しみは、欠片(かけら)も感じられない。
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