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闇、であった。そこは。
深い……深い、漆黒の闇。
そこがどこにあるのか、誰も知らない。
そこにいる本人達にすら、わからないのだ。
ただ―そこに、彼女はいた。
消えることのない燭台の下、機織機を、動かし続けた。
とんからかっしゃん とんからかっしゃん
とんからかっしゃん
とんしゃんしゃん
夢織りしゃんせ通りゃんせ
夢織姫は夢を織る
願い叶わぬ者達の
思いを糸に夢を織る
「夢織姫(ゆめおりひめ)様、大変です!」
その時、暗闇の中、ふいにぽっと光と共に、五歳ぐらいの頭をわっか状態にまとめた男の子が現れた。
そうして、バタバタと、機織機の前にいる夢織姫の前に近づいてくる。
「何じゃ、騒々しい」
そう言って顔を上げた夢織姫は、年の頃は、十三・四歳。愛らしい顔立ちをしていた。
しかし、その黒い瞳は。
その年頃にはふさわしくない、「何か」が、宿っていた。
「生き人(びと)が、迷い込んでおります」
「-生き人が?」
男の子の言葉に、夢織姫は、おやっと少しだけ驚いた表情になる。
ここしばらくの間―と言っても、あちらではどれくらいの時間が経ったのかわからないのだが―この場所に、生き人は迷い込んでこなかった。
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