399人が本棚に入れています
本棚に追加
カナカナカナ……
遠くで、鳥の鳴き声が聞こえた。
西の空は、朱色に染まっている。
夜の闇と、昼の光が混じり合う、ほんの束の間の時間。
すべてが朱色に染まっているなかで、一人の少女が、空に向かって手を合わせ、祈っていた。
彼女のすぐ隣には、井戸がある。
「―泉!」
そんな彼女を、呼ぶ声がした。
少女は目を開け、声がした方に顔を向ける。
「頼家様」
自分の名を呼んだ人物を認めたとたん、少女は笑みを浮かべた。
だがそれは、どこか哀しげな笑みだった。
一方、彼女を呼んだ少年の方も、どこか哀しげな笑みを浮かべ、少女に近寄ってくる。
「ここにいたのか、泉」
「―はい」
最初のコメントを投稿しよう!