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『お父(とう)……」
『だが、泉。あの直後に、お前が生まれた。鈴は出産とお前の父親―那智殿を亡くした心労で、死の一歩手前の状態だった。……こんな無力な私でも、力になれるだろうか、と私は思った。生まれたばかりのお前を見ながら。そして―決めたのだ。御所にとって、私の存在が意味のないものならば、生き延びてやろう、と。意地でも、御所の知らない所で幸せになってやろう、と』
遠い意識の底から、懐かしい声がする。
自分がよく知っている、男の声だ。
『どうしてお母(かあ)は、鎌倉を離れたの?』
次に聞こえてきたのは、そう問いかける、幼い少女の声だった。
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