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「三幡様や、千幡様にも呼びかけてもらった方が、大姫様も、戻ろうとなさるかもしれません」
「泉……」
「大姫様は、お優しいお方ですから」
少女はまだあどけない顔に、大人びた微笑を浮かべた。
そして、そのまま井戸の方に歩み寄ると、桶を取り、水を汲むべく、井戸の中にそれを放り投げた。
「泉、兄様、早く行こう!」
「はやく―!」
「少し待っていろ。泉が今、水を汲んでいるんだ。姉上の熱を下げるために必要なんだから、待てないのなら、見舞いはなしだぞ」
落ち着きのない少年の弟と妹は、彼らよりも少し離れた場所で、二人を呼んでいる。
それに言葉を返しながら、少年は空を仰ぎ見た。
朱色の空は、半分近くが闇色に変わっている。
少年はしばらくの間、その空を見上げていたが、右手を上げ、目の前に持ってくると、そのまま目を閉じて空に祈った。
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