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生きている時の人間は、果てしなく強い。
どんなにつらくても、生き延びようとする。
ここに来るのは、それができず、『心』を残した者達ばかりだ。
「それは難儀なこと……」
あちらに帰ってくれるのならいいのだが、帰ることを拒む者の後始末をするのが、一番大変なのだ。
今回は、どうなのであろうか?
素直に帰ってくれるといいのだが。
そう思いつつ、夢織姫は機織機の前から立ち上がった。
「して、その生き人は、どの様な者か? ほおずき」
素直に帰らぬなら、さっさと後始末をつける気で、知らせに来た仕え人(びと)の男の子―ほおずきに問うと、
「それが……小さい女の子なのです」
思ってもいない返事が返ってきた。
「―まことか?」
「今、やまぶきが相手をしているのですが……まだ、五、六歳ぐらいの女の子です」
ほおずきは、困惑気味な表情でそう言った。
「なんと……」
幼子(おさなご)がここに迷い込むなど、かつてなかったことである。いったい、どうしたことなのか。
「たまたま、迷い込んだのでしょうか?」
「わからぬ……」
主人と仕え人は、困惑の表情で、考え込んでしまった。
五、六歳といえば、まだまだ無邪気な年頃である。
父や母に守られて、あるいは周りの者達に守られて、怒りも、哀しみも、絶望も、まだ遠い場所にあるはずである。
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