1 まどろみ

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 生きている時の人間は、果てしなく強い。  どんなにつらくても、生き延びようとする。  ここに来るのは、それができず、『心』を残した者達ばかりだ。 「それは難儀なこと……」  あちらに帰ってくれるのならいいのだが、帰ることを拒む者の後始末をするのが、一番大変なのだ。  今回は、どうなのであろうか?  素直に帰ってくれるといいのだが。  そう思いつつ、夢織姫は機織機の前から立ち上がった。 「して、その生き人は、どの様な者か? ほおずき」  素直に帰らぬなら、さっさと後始末をつける気で、知らせに来た仕え人(びと)の男の子―ほおずきに問うと、 「それが……小さい女の子なのです」  思ってもいない返事が返ってきた。 「―まことか?」 「今、やまぶきが相手をしているのですが……まだ、五、六歳ぐらいの女の子です」  ほおずきは、困惑気味な表情でそう言った。 「なんと……」  幼子(おさなご)がここに迷い込むなど、かつてなかったことである。いったい、どうしたことなのか。 「たまたま、迷い込んだのでしょうか?」 「わからぬ……」  主人と仕え人は、困惑の表情で、考え込んでしまった。  五、六歳といえば、まだまだ無邪気な年頃である。  父や母に守られて、あるいは周りの者達に守られて、怒りも、哀しみも、絶望も、まだ遠い場所にあるはずである。
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