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「姫様」
パタパタと、男の子の方が―やまぶきが夢織姫に近寄ってきた。
「この子か? やまぶき」
「はい。いくら帰りなさい、と言っても帰らず」
「ねえ、義高(よしたか)様は? 義高さまはどこにいるの?」
やまぶきの言いかけた言葉を遮り、女の子は夢織姫にそう問いかけてくる。
「……と、この調子なのです」
「なるほど」
多少閉口気味のやまぶきの言葉に、夢織姫は頷いた。
と、その時である。
「おばちゃん、義高様はここにいるんでしょ? 義高様は、どこにいるの?」
幼子の少女は、とんでもない嵐をしかけてきた。
確かに、自分はこの少女の母親よりも遥かに年上である。
だが夢織姫は一瞬、本気でこの少女をさっさと始末しようかと考えた。
「ひ、姫様。落ち着いてください!」
「そうですよ、まだほんの子どもじゃないですか!!」
やまぶきとほおずきが、夢織姫をなだめようと必死になって声をかける。
「わたくしは、夢織姫という」
言われなくてもわかっておるわ、と二人の仕え人に目で言いながら、
「ここは、そなたのような生き人が来る場所ではない。はよう、己の世界に帰るがよい」
と、幼い少女に告げた。
しかし少女は、
「でも―義高様がいないもの」
大人びた瞳をして、そう言った。
「そのような者は、ここにはおらぬ」
「ううん、ここにいる。大姫(おおひめ)には、わかるもの。いつだって、義高様がいる場所は、大姫にはわかったんだもの!!」
その言葉に、ふと夢織姫は、聞き覚えのある名があることに気付いた。
「そなた―大姫と言うのか?」
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