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そして、彼女がそう呟いた時。
(大姫に、手出しは無用でございます、夢織姫様)
若い―まだ、完全には大人になりきれておらぬ、少年の「声」が、夢織姫の頭に直接響いてきた。
「やはり、出てきたか」
その「声」の持ち主は、彼女が夢を織り上げたのにもかかわらず、「眠り」につかぬ者だった。
「あの幼子は、わたくしが織り上げた、そなたの夢に出てきた者。よほど、そなたが恋しかったと見える」
(……)
「で、どうする?」
自分の言葉に沈黙した「声」に、夢織姫はそう問いかけた。
「……どうする、とは?」
「わたくしも鬼ではない。あのような幼子を『闇』に送るのは、忍びなくてな。だから、そなたが決めるがよい。そなたは、あの子をどうして欲しい?」
(夢織姫様は、俺を悪鬼(あくき)に変えるおつもりですか?)
「さて。まあ、そなたがそうなった時は、遠慮なく、始末をつけるがの」
くすくすと意地の悪い笑みを浮かべ、そう言った夢織姫に、
(それでは、夢織姫様が思うように。俺は、あなたを信じていますゆえに)
「声」の少年は、淡々とした口調で答えた。
「かわいくない奴じゃ。まあ、良い。やまぶき、悪いがあの子の相手を、ほおずきと共にしばしやってくれぬか」
「それはかまいませぬが……何をなさるおつもりですか?」
「夢を、織る」
「え?」
夢織姫の言葉に、やまぶきは目を見張った。
「姫様、それは……」
「生き人に夢を織るのは初めてじゃがの。これも、致し方あるまい」
そう言うと、夢織姫は機織機の前に座った。
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