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「澪!」
名前を呼ばれはっと教室の入り口を見ると、由佳が手招きをして笑っていた。
「由佳、どうしたの?」
少し先程の女子達を気にして目をやりつつ、席を立ちそちらに駆け寄った。
「うぅん、なんとなく遊びに来ただけー」
笑って答える由佳だが、多分自分のクラスに居場所がないのだろう。
大石の件を気にしていない友人でも、みんな両親のことに気を遣っていて.最近の由佳にとって居心地の良い場所は限られている。
「…ねぇ、由佳」
「ん?」
澪は少し前屈みでこそっと喋る。
「佐々木さん..ってさ、由佳、同じクラスになったことある?」
由佳はパチクリと瞬きをし.首を横に振った。
「ううん。
…あ、中一の時に一回あったや」
「仲良かったの?」
「いや?グループ違ったし...でも何かあったら直ぐ手助けしてくれる子だったし、何度か喋ったことはあるよ」
「ふぅん..」
少し綾音の顔を頭に浮かべ、考える。
「なに、綾音ちゃんがどうかしたの?」
「え?いや、別に」
澪はにこっと笑い、綾音に関してそれ以上考えないことにした。
「...あ、そういえば澪、今日部活あるっけ?」
「ん?ないよ。バレー部は?」
「あるよ~大会前だしね!新人戦頑張んなきゃ!」
元気にガッツポーズをとる由佳と笑う。
やはり、自分は由佳が好きだと改めて感じた。
「澪も演劇部の超新星だ.ってめっちゃ恐れられてんでしょ?いいなー!」
子供のように口を尖らせて肩を揺すってくる由佳を笑って引き剥がしながら
「大袈裟。先輩達の方がずっと上手いのに謙遜してくれてるのよ」
と受け流す。
「先輩に謙遜させるたぁ大した後輩だねぇ?おぉ?」
「うーるーさーいー!ばーか」
また揺すってくる由佳とじゃれ合っていると.始業のチャイムが鳴り響いた。
「あ!じゃあね、澪。ってことで、今日は先帰って大丈夫だから!」
「おっけー。ばいばい」
急いで席につき、授業の教科書を取り出す。
その背中を、笑みを浮かべた一人の少女に見詰められているのにも気付かずに。
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