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男はハハッと笑い、楽しそうに「仕方ないなぁ」と腰に片手を当てながら答えた。
「真紀だよ。まーき。
小学一年生ん時に同じクラスで、二年生になる前に転校した真紀!」
――小学校一年生の時で、しかも一年しか一緒にいなかったやつを憶えてる訳ないだろ!
そう怒りそうになる所だったが―…
巧馬は、小学一年生の時クラスにいた"マキ"という人物を忘れてはいなかった。
「マキ…?」
「そ。思い出した?」
屈託のない、無邪気な笑顔を向ける真紀。
だが…
「嘘だ」
「へ?」
「嘘だ嘘だ嘘だぁ!!」
「え?ちょ、巧馬?」
「だ、だってお前、俺が知ってる"マキ"は.."マキちゃん"は!」
――『マキ、俺、将来マキをお嫁さんにしてあげるから』
――『ありがとう!』
「あの…言っとくけど、俺、産まれた頃から男だよ?」
巧馬は、思わずその場に倒れそうになった。
小学校一年生の時。
みんなに"マキ"と呼ばれる、とても可愛い子がいた。
その年の学芸発表会で俺はなんとシンデレラの王子様を努めた。今思えばこれが俺の人生最大の大役かもしれない。
小さい頃からまぁ相変わらず華のない俺が王子になんてなれたのは、そのマキのおかげであった。
「シンデレラはやっぱりマキだよー」「マキしかいないって!」「じゃあ王子様は誰がやるの?」「俺やる!」「えーやだ加藤君にしよーよ」「翔太がいいって」
「あの!」
マキが大きな声で、びしっと挙手をし言った。
「王子様が巧馬くんなら、やってもいいです!」
みんなの視線が一斉に俺に向いた。
驚きの眼差し、恨みの眼差し、呆れの眼差し、怒りの眼差し…
しかし、マキだけはとびきりの笑顔で振り返り.「おねがい」と俺を見詰めていた。
マキは俺以外とやらないと言うし、「むりです」と周りに逆らう勇気もない俺は.結局マキの王子役をすることになった。
この時点で俺は既にマキに心惹かれてはいたのだが、本当に惚れたのはマキがお姫様になった時だった。
「えへ、似合うかな?」
照れながらふわりと一回転したマキ。シンデレラの淡い水色のドレスに、セミロングの巻き髪のかつらに光るティアラ。いつもは男子と変わらぬほどのショートヘアーにボーイッシュスタイルのマキが、本当に女の子のようだった。
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