シーン1.ある日の平日

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「たーくまくぅーん。  ‥なーんか怒ってるー?」 「……別に怒ってないけど」   「「………」」 「……嘘」 「怒ってない」 「そうだな!怒ってないな!ハハ.ハ..」 被せるように言ってから、真紀は苦笑しつつ電車の吊革に両手の指先を絡め子供のように爪先立ちでぶらりとぶら下がった。 ―――そんな、まさかマキが…マキちゃんが… 「なに、俺、知らない間になんかした?」 笑っているものの、少し困ったような目を横から送る真紀。 こちらは綺麗な初恋の思い出が壊されて大ショックだったというのにのん気なやつだ。 「…別に、何も」  ハの字になった眉と.きらきらした瞳がなんとなく哀れな柴犬を連想させる。 イケメンってずるいなぁと改めて実感した。 「―――で、これ何処に向かってるの?」 そろそろ現実を受け入れるべく、ため息混じりに只今走行中の電車から見える.だいぶ下町チックな景観に目をやった。 真紀は吊革にぶら下がったまま前のめりになり、車窓に映った横に立つ俺の瞳を見ながら 「ん?白浜。割と穴場なんだよ。 まぁ感動の再会を祝い?適当に服屋とか回って飯でも食ってさ」 と簡単に答える。 「感動って……」 あれ、と巧馬は真紀の顔を見やる。 「ていうか、お前よく俺のこと分かったな」 小学一年生と大学生じゃさすがに色々と変わっているだろうに、よく簡単に分かったものだと巧馬は感心半分不可思議半分に真紀に問いてみた。 「あぁ、ゼミの名簿で名前を見つけてさ。捜したんだぜ? 最初はメガネで分かりづらかったけど、お前結構変わってなかったからさ、すぐ分かった」 きゅっと眩しそうに笑う真紀だが、"変わってない"というのは『大人な大学生』を目指している巧馬には地味にショックな言葉であった。 .
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