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話題のヒト
新緑が目に眩しく映るようになった五月の連休明け。
俺は家庭の事情諸々の関係で、ひと月遅れで転校先であるこの桂都<けいと>に登校してきた。
敷地がただっ広いこの学園の中をさ迷い、ようやく目当ての校舎にたどり着いたところだ。
生徒の増加とともに増築を繰り返したのであろう。一部、迷路みたいで、方向音痴なら教室に辿り着けないかもしれない。
(早く慣れないと)
「六田隆司君だね」
不意に名前を呼ばれ、声のした方を向くと、若い、人の良さそうな男が立っていた。制服を着ていないので、教師だろう。
「はい。そうです」
返事をする俺をマジマジと見つめている。やっぱり、こんな中途半端な時期の転校生は珍しいのだろうか。
「教師の法月<ほうづき>です。二年生を受け持ってます」
「それじゃあ、担任の先生ですか?」
「いや。まだ違うよ」
そうなるかどうかは君の運次第だね。
「はい?」
クラスを決めるのに、俺の運なんて関係あるんだろうか? 人数の少ないクラスに自動的に突っ込むものじゃないのか?
独り言のようにつぶやかれた言葉に首をかしげる。
「とりあえず、職員室に案内するよ」
ついて来て。と、困惑する俺に背を向けて、スタスタと歩きだす。
俺は、慌ててその背中を追った。
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