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「別に、いい」
また連れて来て、とはどうしても言えなかった。言ったらこの根性無しは泣きそうな顔をする気がしたから。
だから、せめて。葦に囲まれた静かなこの時間を忘れないように、バカみたいに熱い馬鹿の手をぎゅっと握る。
右隣のたわけ者は何を考えているのか気になって、ちらっと横目で見たら目が合った。
微笑まれて、何だかもやもやして。何となく隆彦のくたびれた靴を思いっきり踏み付けたくなったけど。
もう一回ちらりとやつを盗み見たら、見たことないくらい真剣な顔をして池を見ていたから、踏むのはやめることにした。
「……バーカ」
その代わり、小さく罵った。誰に対して言ったのか、よくわからなかったけど。
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