思い出はもう段ボールにしまわれて

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「あ、凛ちゃん、いらっしゃい」  汗が滴り落ちて段ボールの上に落ちる。やつは重そうなそれを玄関脇に積み重ねて、黄色いシャツの裾で汗を拭う。  一瞬見えた腹に少し驚いた。春から始めた野球の影響だろうか、ぷよぷよしていた腹はいつの間にか、ほんのり引き締まっている。  隆彦が引っ越すまで、あと八日。私はこいつのお母さんに呼び出され、家まで来ていた。 「上がって上がって。母さん、台所にいるから」  お邪魔しますと小さく呟いて、自分の家程に歩き慣れた廊下を奥へと進む。普段なら綺麗に掃除されている廊下には、小さな紙屑が落ちていて裸の足にくっついた。  出て行くんだな、と実感する。
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