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『じゃあ明日12時にね。おやすみ、凛ちゃん』
受話器からやつの声、そしてがちゃりと通話を終える音が私の耳に届いて、何も聞こえなくなった。
すぐ近くに住んでいるから電話なんてあまり掛けたことなかった。今後、増えることも無いとは思う。
だってわざわざ話すことなんて無い。ただ何となく一緒にいて、たわいもないことを話して。そんな何でも無い時間が好きだった。
やつが引っ越す先は車で2時間弱の山の中。電車を乗り継げば会えないことも無いだろうけど……。
「はぁ……」
自分の部屋までの廊下が、何だかやけに長く感じる。静まり返った家にわざと響かせるように、階段を勢いよく上がった。
うちは広い。それは外科医の父と看護婦の母の恩恵なんだろうけど、一人で食べる夕飯はやっぱり寂しいものがある。
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