1日目

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ウメジンタン、久々にみた。 あんなに細かいものを拾えるはずがなく、ウメジンタンはあっという間にバスのなかに散らばった。 『あー、お客さん大丈夫ですか? 片付けはしときますんで。』 と、運転手さんは気にしていない。 その女のひとは……。 はっきり分かるぐらいに落ち込んでいた。 え、たかが、駄菓子で? いや、美味しいのはしってるし、もったいないとは思うけど……。 どうしたものかと様子を窺っていると、その人の目が、涙ぐんでいることに気付く。 その目が、 どうしようもなく綺麗で、 僕は、無意識に、 クッキーを差し出していた。 「良かったら……どうぞ?」 きょとんとする、女性。 途端に顔が熱くなった。 違う、このシチュエーションは、違う! てか、ありえねー! 涙ぐんでいる女性に渡すとしたら、普通はハンカチだよ! 何、何してんだろう、自分。 「す、すみません。これぐらいしかないので。」 「……」 すっかり涙が止まった女性。 いや、涙が止まったのは良いんだけど……。 穴が合ったら入りたい。 クッキーを持った手をそろそろと、自分の体に戻す……ことは出来なかった。 「下さるんですかっ!?」 「はい?」 もう一度顔を窺うと、 スッゴい笑顔。 もし、「あげない」とか言った日には、サクッと刺されそうな気がする。 「……クッキーで、良いなら。い、いくらでも……」 かろうじで声を絞り出す。 「わあぁっ! ありがとうございます!」 女性はそう言って、さっそくクッキーに手を伸ばした。 さくっっと小さくかじる、桃色の唇。 「はぁ、美味しいっ。」 女性はうっとりした表情でクッキーを見つめる。 この、次の言葉と、表情が、一番の原因だと思う。 女性は、とびっきりの笑顔で言った。 「私、大好きです! 甘いもの!」 ……。 九割の男子は、恋に堕ちると、思う。 もちろん、僕は、その九割の一部だから。
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