1日目

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「あー、そうですか? でもほら……おやつ仲間として、こうして繋がったんですし、他人じゃないですよ?」 笑顔でそう答える彼女には、多分悪気はない。 また、この人は……。 なんにも気にせずに「繋がった」とか……。 黙ってうなだれていたのは、マイナスの方向にとられたらしく(と思っている時点で、もうこちらからも他人とは思いたくない)、彼女は気まずそうに身を引いた。 「……いきなり、迷惑ですよね。ごめんなさい。そういったつもりは全く無かったんですけど……。図々しかったです。」 うなだれる、小さな身体に、つい声をかけそびれる。 それから少し。 運良くか悪くか、彼女がバスを降りる準備を始めた。 『次はー、湊川駅西口ー、湊川駅西口ー。』 バスのアナウンスが流れ、彼女がボタンを押すと、古っぽいチャイムが響く。 「……じゃあ、私は、これで。クッキーありがとうございました。」 彼女は綺麗な髪を片手で押さえ、僕の横を通り過ぎた。 鞄のポケットからは、イタリア風のストラップがのぞく。 おそらくは、さっきの携帯。 彼女が、バスを降りる。 『バス、発車します。ご注意下さい。』 いつもどうり、アナウンスが流れる。 違うのは、不思議な心残り。 ーひょっとして、後悔してる? そう思った瞬間、僕は口を開いていた。 「待ってください! 降ります!」
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