第一章

2/10
334人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ
『僕は最低の人間だ。』 兄さんの墓の前で、 真堂(シンドウ)ジュンは誰にも見られないようにして泣いた。 この日は雨が降っていた。 傘が僕の顔を隠してくれる。 『僕は最低の人間だ。』 僕は心の中で何度も兄さんに謝った。 僕は兄さんを尊敬していた。 兄さんは目標であり憧れだった。 それなのに……、 兄さんを失ったのに、 こんなに悲しいのに、 僕の心にはよこしまな感情が潜んでいた。 兄さんが死んだ。 これで義姉さんは自由になる。 こんなことを考えている自分を自分で軽蔑していた。 僕の義姉さん、 真堂サヤカに、 僕は兄さんよりも先に出会い、 そして、 兄さんよりも先に好きになった。 『僕は最低の人間だ。』 兄さんが死んで、 少しでも安堵した自分を、 僕は許せなかった。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!