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『僕は最低の人間だ。』
兄さんの墓の前で、
真堂(シンドウ)ジュンは誰にも見られないようにして泣いた。
この日は雨が降っていた。
傘が僕の顔を隠してくれる。
『僕は最低の人間だ。』
僕は心の中で何度も兄さんに謝った。
僕は兄さんを尊敬していた。
兄さんは目標であり憧れだった。
それなのに……、
兄さんを失ったのに、
こんなに悲しいのに、
僕の心にはよこしまな感情が潜んでいた。
兄さんが死んだ。
これで義姉さんは自由になる。
こんなことを考えている自分を自分で軽蔑していた。
僕の義姉さん、
真堂サヤカに、
僕は兄さんよりも先に出会い、
そして、
兄さんよりも先に好きになった。
『僕は最低の人間だ。』
兄さんが死んで、
少しでも安堵した自分を、
僕は許せなかった。
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