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「ジュン君。どうかした?」
兄さんの墓の前で座り込んだまま、
中々立ち上がらない僕を心配して、
サヤカさんが声をかけたきた。
僕は手の甲で涙を拭い、
苦笑いをしながらこう言った。
「なんでもない。」
なんでもないわけがなかった。
僕はまっすぐサヤカさんの顔を見ることができなかった。
真堂サヤカ。
旧姓で言うと、
涼風(スズカゼ)サヤカ。
この人が僕の義姉であり、
今でも好きな女性の名前だ。
ずっと封印してきた気持ちだった。
義姉として見るよう努力してきた。
だけど、
兄さんが死んでしまった今、
その封印が解かれつつあった。
僕はサヤカさんの側まで走り、
並んで帰った。
激しくなる雨音が、
僕のドキドキしている心臓の音を掻き消してくれればいいと思った。
決して聞こえるはずのない心臓の音が、
聞こえてしまうのではないかと考えてしまうほど、
この時の僕は動揺していた。
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