鬼ノ糧

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鬼ノ糧

それは、つい先程の事だった。 ━━…カンッカンッカンッ‥ 「鬼だーーっ!!!鬼が来たぞーーーっ!!!」 村の門番が大声を張り上げ鐘を鳴らす。 此処は自然に恵まれた至極普通の小さな村だ。 だが、この鐘が鳴った数分後には鬼がやってくる。 鬼が来るのは年に1度で、大体が3月~4月と決まっている。 この時期になると皆様子が変わる。 この村では鬼に生贄を捧げる事が儀式のように続けられている。 。 詳しくは知らないけど、そうする事で鬼が僕たちの村を災いから護ってくれるんだって。 だから鬼によって選ばれるのは光栄な事なんだって。 どれくらいの時間が過ぎたのだろうか、鬼ヶ島と村を繋ぐ出入口の鐘が鳴った。 鬼が去った後、村民の確認の為にいつもの家に集まった。 鬼が去るまでは決して家を出ることは許されないから。 そこには家族の姿が無かった。 僕は幼なじみである憂の家に出掛けていた。 憂の家では何事もなかった。 でも、僕の家族が連れ去られたのである。 一気に顔が青ざめ、血の気が引くのが解った。 頭の中が真っ白になる。 光栄ナ事ナンダヨ…‥ 震えているのが自分でも解る。 僕の心境を察したのか、憂が手を握ってくれた。 僕はまだ信じられなくて、震える脚をなんとか落ちつかせながら家に向かった。 居るはずの家族の姿も見当たらない静かな家の中で泣き崩れた。 僕の家族が生贄となったのだ。 僕の家の周りにはこの村の人々が集まっていた。 涙を流す人、手を合わせてブツブツと祈る人、中にはこそこそと話している人もいた。 そんな光景は鬼が現れると当たり前だった。 毎年の事。 鬼ニ選バレルノハ光栄ナ事ナンダヨ…‥ 僕の頭の中でその言葉がぐるぐると廻り続けた _
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