星になったあいつより愛を込めて

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見覚えのある紺色の布団に誠二は眠っていた。 相変わらず殺風景な部屋の中だ。 駅で最後に見た背広が壁にさがっている。 くすんだ色調の中で、遺体の頬と胸元だけはやけに明るく、鮮やかな薔薇色に映えている。 「これが一酸化炭素中毒の特徴なんですよ」 優太郎の視線に気付いて、先に部屋にいた刑事が説明した。 手を触れると、堅く、冷たい。 薔薇色に似合わない感触であった。 簡単な読経のあとで、遺体はワゴン車に積まれ、深夜の国道を東京に向けひた走りに走り続けた。 誠二の世田谷の実家では、通夜が待っていた。 「あいつは女も知らずに死んじまって‥‥」 息子に先立たれた父親は、せめても和ませようとしたのだろうか、式の合間にふと優太郎にそう呟いた。 ─父親は、そんなことを心残りに思うものなのか‥‥─ 誠二は、少なくとも大学を卒業するまでは、勉強に、部活に、一筋の男だった。 成績も申し分無い。 父親の口利きがあったとはいえ、この分野では非常に難しい、外部の大学病院医局への受け入れを許可されたのもそのせいだろう。 酒はよく飲んだが、女性関係の噂は皆無に近かった。 『親父が敬虔なクリスチャンだったからな。まぁそんな教育は受けなかったが…』と、誠二が苦笑まじりに述懐していたのをふと思い出した。 父親や下を向いたまま黙っている。 自分の教育を責めているのか、それとも横浜へ行かせたことを悲観しているのか……。 もしかしたら誠二の父親は、息子の“清い体”を、否定してほしかったのかもしれない。
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