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横浜の街並は、あの頃とはだいぶ様変わりしていたが、思い出のスナックを見つけるのはさほど困難ではなかった。
「あら、なつかしいお客様ね」
と、スナックのママが、長いまつげの視線を遠くに送って言う。
「アイコさん、いる?」
「いるいる!あなたから久々にメールが来て、会うの楽しみにしてたみたいよ。今呼ぶから待ってて」
この人には、一周忌のときに顔を合わせている。
久しぶりに会って、一瞬、
─少し老けたかな─
と、思ったが、やはり水商売の女らしい、年齢よりもずっと若い姿がそこにあった。
そうこうしていると、アイコがカウンターの奥から歩いて来た。
「お久しぶりね」
「久しぶり」
─一段と綺麗になったな…─
色白の肌に、赤めの口紅が栄える。
なんとも艶やかだ。
そんな印象を受けた。
「お墓にはいらっしゃるの?」
「いや、残念ながらここしばらくは行ってないかな」
「そう…もう5年になるものね」
「親父さんもあれから入院しちゃったみたいだしな。もともと体が弱かったらしいけど」
「あら、そうなの。知らなかったわ…」
彼女にとって、誠二は遠い昔の人になってしまったのだろうか‥‥。
もともと、それほど深い関係ではなかったのかもしれない。
店はいくぶん前より広くなり、豪華になったような気がする。
ここのスナックも彼女も、それなりに目端のきく時間を送ってきたのだろう。
アイコがどういう生い立ちの女かは知らないが、誠二が死んだことで、自分の人生までおかしくなってしまうほど、そんな甘い生活感を持っている人ではなさそうだ。
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