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「どうなさったの?怖い顔をして考え込んじゃって」
アイコが新しい水割りを作りながら戻って来た。
「いや、別に……」
「別にってことはないわ。なにかあったら聞くわよ?」
「少しあいつのことを考えてた」
「そう……」
疲れているのだろうか、なんだか酔いが廻るのが早い。
優太郎は実のところ、ここ数日、学会の準備でしばらく休みが無かった。
「それにしても、ひどい様子よ?大丈夫?」
「あぁ……なんだかへばっちゃって……ここ数日忙しかったから……やけに酒が廻るんだ」
「ちょっと…本当に大丈夫?」
「大丈夫!大丈夫!なんならこの後、軽くご飯でも?」
「いいわよ。明日、早いからあまり遅くならなければ……」
─ん?デジャヴ……?─
優太郎はとっさに記憶を探る。
だが、今までに無い記憶である。
しかし、ここの空間には、過去の記憶と、その空気が、確かに流れていた。
「そうだ…君に会ったら1つだけ聞きたいことがあったんだ」
「なぁに?なんでもお話するわ。誠二さんのこと?」
「あぁ。まぁね」
優太郎はアイコの瞳を覗き込みながら尋ねた。
「誠二とは……あいつとはあったの?」
「なにが?」
「なにがって……男と女のことが……」
「あぁ……」
するとアイコはフッと笑うと、
「それは言えないわ」
「えっ?」
「忘れちゃった。ずいぶん昔のことだから」
「そうか。じゃぁ仕方がないな」
優太郎もフッと笑い返す。
それを見ると、女は今でも充分に弾力のある、細い体を揺すって笑った。
──星になったあいつより愛を込めて──
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