星になったあいつより愛を込めて

2/17
前へ
/17ページ
次へ
久しぶりの横浜の街並み。 思い出深いスナックへと向かう道。 ─あぁ…ふと横浜の空を見上げると、あいつの事を思い出す……─ 優太郎が横浜に来るのは、これが3度目となる。 この横浜という街には、愉快な思い出と、悲惨な思い出とが1つずつある。 いや、愉快な思い出に比べれば、悲惨な記憶のほうがずっと大きいのかもしれない。 そもそも、この2つを対比させるのはあまり適切ではない。 優太郎は横浜の街を多少なりとも知っている。 親友の誠二が、当時、横浜市立大学付属病院で働いており、この地に住んでいたからだ。 もう5年近く前のことになる。 優太郎も誠二も、研修医を卒業し、一人前の医師として日々切磋琢磨していた頃、 「今度、横浜で比較内分泌の学会があるんだが‥‥会えないかな?」 「なんだ、じゃぁうちに泊まりに来いよ!ホテル代も馬鹿にならんだろ?」 「実はそのつもりだったんだ。助かるよ」 と約束がまとまって、学会が終わった日の夜には、一晩横浜に赴いて痛飲した。 何軒目かの店で、アイコという名のホステスを紹介された。 色白で、少し垂れ目で、どこか甘えたような面差しの女であった。 ヒップホップだかジャズダンスだかをやっていたとかで、肢体に何とも言えぬ弾力があった。 「彼女とは‥‥ちょっと仲がいいんだ」 店を出たところで誠二が言った。 雰囲気から察して、おおかたそんなところだろうとは感じていた。 「なるほど。まぁお前も俺も医者のはしくれだし、いい仲の女がいてもいいんじゃないか」 「いや、まだわからない。深入りしそうな予感もする」 誠二は生真面目な男で、共に東京の大学で勉強していた頃は、まだ“女を知らない”はずだった。 優太郎がそのことを尋ねると、 「アハハハ、相変わらずまだなんだ。俺はお前と違って手が遅いからな。チャンスがあっても逃しちまうんだ。しかし‥‥」 「しかし…?」 「近々かもしれない」 と、おもいっきり背伸びをすると、照れくさそうな面差しで言った。 「あの感じだと、ありうることだな」 「まぁな」 「しかし、今深入りすると東京に戻って後悔するぞ」 「あぁ。それを思うと気軽に手が出ない」 その女は今も、あの思い出のスナックで働いている。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加