25人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうだった?」
駅の近くのレストランで、電車の時間を待ちながら、優太郎と誠二はビールを飲んだ。
誠二はニヤニヤ笑っている。
『どうせ婆さんだけだっただろう』と、その顔が告げていた。
「眼の保養になったよ」
「お前そんな趣味あったっけ」
「いや、若い娘がいてね」
「嘘をつけ」
「いや本当だ。若い娘が‥‥って言っても16、17ぐらいの子で、母親と弟と一緒に来てたんだ。きれいな体だった」
「本当かよ」
「嘘をついたって仕方ないだろ。彼女は前から見られたくないってタオルで必死に隠してたけど……うしろを向いたとき……」
「うしろ?」
「少し見えたんだ」
「なにが?」
優太郎は、ビールを一気に飲み干すと、あたらめて“菱形の空間”について語った。
初めは作り話だと思って聞いていた誠二も、途中からはその信憑性に耳をそばだてた。
「へぇ…若い娘が来ることもあるんだなぁ」
「日頃の心掛けのおかげだな」
「馬鹿言え。お前みたいな女たらしが言えた質かよ。…だが、俺も何度か行ったけど、婆さんばっかりだったなぁ」
「あんな角度から、あんなふうに見えるとは知らなかった」
「俺も見たことない」
「ってか、お前はまだ清い体なんだから知ってるはずないだろ」
「それもそうだ」
誠二は愉快と苦笑の入り混じった顔で笑った。
25歳をとうに過ぎた男にとってみれば、“清い体”はさして自慢できる代物ではない。
しかし、優太郎は誠二の苦笑の中に微妙に揺れ動くものを見た。
─清い体ももうすぐ卒業だな…─
なぜかそう直感した。
確信と言ってもいいほどに……。
その瞬間、昨日紹介されたアイコという名の女が頭に浮かんだ。
─彼女も細身の体だったが…─
とりとめもなくそう思った。
最初のコメントを投稿しよう!