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井上舞子は深い森の中にいた。
足を止めることなく歩き回っているが、探している人は見つからない。
何処にいるの?
何をしているの?
小野君 会いたいよ‥
――ガサッ‥
突然、目の前の草むらが音をたてた。
ドキリと跳ねた心臓を落ち着かせようと、胸元を手で押さえ、恐る恐る問いかける。
「‥‥だ‥れ?」
少しの間を空け、音の主がゆっくりと姿を現した。
顔も体も泥にまみれた本庄健太だった。
「‥井上さん?良かった、井上さんで」
健太は安堵の息を漏らす。
それと同時に、舞子の緊張もほぐれた。
健太はクラスのお父さん的存在で、何か問題が起こるといつもまとめてくれる。
そんな彼を、舞子もよく頼りにしていた。
ここで健太に会えたことは、舞子にとってとても心強かった。
一緒に小野君を探してくれないか、そうお願いしようとした時、先に健太が口を開いた。
「井上さん。お願いがあるんだ」
「何?」
「死んでよ」
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