雨上がり

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とある夜の駅から自宅までの道。 朝降っていた雨はやみ、道には所々に水溜まりが出来ていた。 辺りには誰もいなく、町はすっかり静まり返っていた。 『何度言ったらわかるんだこのクズ!』 上司の言葉が頭から離れない。 この所仕事は上手くいってなく、同僚が成功していく姿を叱られながら見る日々が続いている。 会社には居場所は無く、一番仲の良かった同僚にも声をかけられなくなった。 学生時代の友人とも連絡を全くとれていない。 彼女にも全く会っていない。 最近は一人でいる時間の方が圧倒的に長い。 大きな溜め息をついた。 「もう会社辞めようかな?」 最近この言葉を発する事が多くなっていた。 『ニャー』 背後から猫の鳴き声がした。 そこにいたのは緑の瞳をした黒猫だった。 黒猫は呼びかけるように何度も鳴いていた。 いつもなら無視をしていただろう。 しかし、今回は違った。 「なんだお前?」 気がつくと、黒猫の頭を撫でていた。 「お前も独りなのか?……違うな」 猫の首に赤い首輪が見えた。 「お前は幸せだな。誰かに愛されて、自由に生きて行ける。何より独りじゃないしな」 黒猫の頭を撫でていると、突然携帯のバイブが鳴った。 携帯の向こうからは、聞き慣れた声がした。 『独りじゃなかった』 脳内にその言葉が走った。 そして自然と次の言葉を発していた。 「結婚しよう」 黒猫は既にどこかに行き、空にはいつもより綺麗に星が光っていた。
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