思い出作りは計画的に

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ヨハンとすれ違いの生活を送っていた陽良子だったが、屋敷の中も片付いて一段落したある日の昼下がりにヨハンはフラリと現れた。 仕事も片付いたらしく、自室の片付けをしに帰ってきたらしい。 陽良子が簡単な昼食を作ると、ヨハンは感慨深く家庭の味を噛み締めていた。 お茶を出した陽良子に、構ってあげられなくてごめん、寂しい思いをさせてごめん…と謝った。 そんな事ないよ!ヨハンの方が大変だったのに…等と申し訳なさそうに返事をすると、大きな右手で陽良子の頭を撫でた。 「明後日にはここを発ちます。陽良子、次に滞在する場所は寒い国です。今の内にたっぷり泳いでおきなさい」 「あ…う、うん…」 もう、明後日にはこことお別れしなければならない。 確かに色々あったとはいえ、楽しかったはずだ。 しかし、邪魔があったりで二人の思い出に「これ」と言ったものがない。 出来れば、鮮やかに思い出せるような、脳裏に焼き付くような大切な思い出が欲しい。 あの日見た、エメラルドのオーロラのように…。 ヨハンの自室を片付けるお手伝いをしながら、陽良子は更に悩んでしまった。 床を拭きながら、心ここに在らずと云うように、作業に没頭しながら考え込んでしまい、気付けば晩御飯の支度をしなければならない時間になっていた。 考え過ぎたのか、頭がガンガンと痛くなって、顔をしかめていたらデリブが見兼ねて声を掛けた。 「奥様、後は私がやっておきます。リサに頭痛薬を出しておくように言っておきました。少しお休みになって下さい」 ごめんと一言振り絞って、重い足をなんとか進めた。 二階へ上がった所でヨハンと出会すと、向こうが訊ねるより早く「ちょっと休むね」と言って寝室に向かう。 ベッドの側には、既にリサが薬を用意して待っており、ちょっとしたお叱りと優しい言葉を頂戴した。 「頭痛くなるまで考えたら身が持たないわよ。さあ、薬飲んだらゆっくり休みなさい」 薬を飲んで、ベッドに横たわると、リサは陽良子の髪を労るように撫でる。 「きっと、夢の中で解決出来るといいわね」 意識が段々と遠ざかっていく。 夢の中で、解決出来たらいいな…と、ぼんやり思いながら。
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