思い出作りは計画的に

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真っ暗なトンネルをただただ先へ進んで行った。 どれ位歩いたのか考え始めた頃、ようやく小さな光がチラチラと見えるようになった。 不安だった陽良子だったので、気付けば走り出していて、光が大きくなるに連れて、速度も上がっていく。 光に身を投げた感覚と同時に、目に飛び込んで来たのは、兵隊らしき若い男。 陽良子の身体に腕を伸ばして、先を制止する。 「はいはい、お嬢ちゃん。ここから先は勝手に行っちゃ駄目だよ!チケットチケット!」 腕に押された反動で尻餅をついて、ポカンと口を開けたままの陽良子に手を伸ばした兵隊らしき男。 良く見れば、車掌さんと思しき格好だったので、兵隊ではないらしいが、それにしても「お嬢ちゃん」とは失礼だ。 「だからね、チケットを見せてくれるかな?」 後ろが賑やかだったので振り返ると、長蛇の列が出来ており、列から顔を出して、騒ぎを覗いている人たちの顔ぶれは、何とも言葉にし難い。 大きい人、小さい人、顔が犬だったり猫だったり。 肌の色が青かったり赤かったり。 驚いている陽良子に、直ぐ後ろの優しそうな老夫婦が「お嬢ちゃんチケットは?」とか、「親御さんは?」等と声を掛けてくれて、マダムから貰った金色のチケットを慌てて差し出した。 「ゴールドチケットだ!」 「おい、あれはゴールドチケットじゃないか?」 周りはざわつき、兵隊なんだか車掌さんなんだか、同じ格好の男達が集まり始める。 陽良子、変わらずきょとんとしているが、そこからだ。 「大変失礼を致しました!ゴールドチケットのお客様とは知らず、無礼をお許し下さい!」 と、偉い人なのか初老の兵隊さんが深々と頭を下げたり、特別室とやらに案内されたり・・・。 初めは薄暗く見えた場所は、まるで18世紀にあった駅というか、煉瓦造りで太く白い柱が芸術的に奥まで並んでいる。 見上げた天井は高く、大聖堂か此処は!と、混乱してしまいそうだった。 特別室というのは、所謂ビップルームで、ゴールドチケットのお客様は~等、数々の持て成しを受ける事になった。 そんなに凄いのか!このチケットは!うほっ!と、陽良子はニヤニヤしてしまった。 なんか、お姫様っていうか、凄いお嬢様になったみたーい! 実際は一国の王子である夫がおり、陽良子もその類ではあるが、如何せん日常に執事が居る為感覚が麻痺しているようだ。
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