思い出作りは計画的に

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何を言っても無駄。 ヨハンは陽良子の事で頭がいっぱいで、罵倒を吐けば吐くほど落ち込んでいくように見えた。 最終的にどうなったか。 ヨハンはソファーに座り込んで頭を抱え、ブツブツと何やら呟いてしまう。 傍から見ると、相当な落ち込み具合である。 一方、デリブとリサは陽良子の帰りを待つと云う答えに至った。 きっと、ひょっこり何時ものように「ただいまー!」と帰って来るに違いない。 買い物へ行って、ふらりと帰って来る主婦なのだから。 暫くすると、チャイムの音が響いた。 ヨハンは慌てて立ち上がり、猛ダッシュで玄関へと向かって行ったが、相手はどうやらお目当ての陽良子ではない別の人物だった。 「これはこれは。旦那様直々にお出迎え下さるとは」 玄関に立っていたのは中肉中背の日本人の男性だ。 流暢な英語で、にこやかな笑顔のままお辞儀をする。 この暑い国で、スーツを着て、汗ばんだ額をハンカチで拭っていた。 「・・・・」 ヨハンの怒りはピークに達した。 いや、呼びつけたのは自分なのだが、如何せんこの人物を見るとイライラしてしまう。 悲しき性である。 「誰?」 リサが居間の扉から玄関を盗み見て訊ねると、デリブが盛大な溜息を吐いて見せた。 「あれは、ご夫婦の財産管理をしている濱井という世界銀行の担当だ・・・。はぁ・・・何故このタイミングで・・・」 余程の人物なのだろう。 ヨハンが無言で身包みを剥ぎ、濱井と云う50代位の銀行員は、悲鳴を上げている。 「いやぁぁぁぁぁぁぁ~!」 「貴様のせいで!貴様が存在しなければぁぁぁぁぁぁぁ!」 責任転嫁も甚だしいが、リサが絶句する横でデリブはホッと息を吐いた。 少し二人を放置した後、デリブが止めに入る。 濱井のオールバックの白髪交じりの髪を逆立て、ネクタイでビシバシと叩いていたヨハンの手を何とか止めた。 「旦那様、そこまでです」 「ああああ・・・執事さん・・・助かりました・・・」 息も絶え絶えな濱井を立たせ、ヨハンに向き合って一言、デリブはこう告げた。 「旦那様。いい加減になさってください。これでは、だだを捏ねて母親の帰りを待つ子供ではありませんか。貴方というお方が、その様な陳腐な真似をなさるなど、見るに耐えません」 正論にヨハンは俯いて、唇を噛んだ。 しかし、陽良子の事が心配でならない。 もう少し冷静にと思いながら、それを止められないのだ。
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