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陽良子は突飛な行動を起す。
それは必ず誰かの為。
自分の好いた人に、喜んでもらいたいと云う一直線な考えだけど、それがあの子なら仕方ないと思えると。
「きっと、そんな思いがあったのでないでしょうか。旦那様との大切な思い出の為に、どこかで必死に探しているかも知れませんね」
そう言った濱井をヨハンは睨み付けた。
だからと云って、大人しくしていられるものか。
陽良子の無事と、思い出等というどうでも良い事を比べられても困る。
問題は、無事かどうかだ。
「旦那様・・・」
「デリブ、貴方も同じなのでしょう?帰りを待てというのでしょう?・・・私には全く理解できません。陽良子にもし何かあったら?帰って来られなかったら?心配で心配で、居てもたってもいられない。お義祖父様の時は運良く見つかったかもしれませんけど、今回は分からないでしょう?あなた方は安気過ぎです!ああ・・・陽良子にもし何かあったら・・・」
確かに心配だが、少しは「待つ」事が出来ないのだろうか・・・と、その場にいた3人は思ってしまう。
「あら、修羅場かしら?」
大らかな声が降って湧いて来た。
一斉に声の主に視線をやると、白髪の美女がゴールドのワンピースを着て、優雅にソファーへ腰を掛けていた。
銀色のショールを羽織り、ゆっくりとした動きでヨハンへと顔を向けた。
「お久しぶりね。ヨハンさん」
「・・・マダム・レイモンド・・・」
ああ、原因がなんとなく把握出来てきたと、ヨハンは眩暈がして天井を仰いだ。
この陽良子の友達は、ヨハンの手の届かない場所で世界を監視している厄介な人物。
「陽良子にはちゃんと言ったのよ?旦那様にきちんと出掛けますと言わなくて良いの?って。でも、あの子の耳には届かなかったみたいね」
非常に落ち着いて、一言一言ゆっくり話すマダムは、ヨハンの気持ちを落ち着かせる様に、優しい声色で言葉を紡いだ。
まるで、子守唄を歌うように。
「今は・・・貴方に何を言っても無駄ね。分かっているわ。心配なのは皆一緒だけれど、貴方は少し、学んだほうがよさそうね?」
するりと立ち上がり、マダムは濱井の方へと歩み寄った。
そして、硬直する濱井のズボンのポケットに手を滑らせる。
「はうっ!!」
「あら、失礼」
そこから取り出したのは鈍色のチケットだった。
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