寝耳に水

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「それでは、明日から夏休みに入るが、高校生と言う自覚を持ってしっかりと過ごすように、以上」 1学期最後の言葉と共に去って行った担任の後ろ姿をぼーっと見送っているとドスンと背中に衝撃を感じる 「やっと終わったねー」 振り返ると望が怠そうにのしかかっている 「んー、なんかあっと言う間だったな」 高校に入って数ヶ月、慣れるだけで精一杯の日々を思い返す 「どうだった?成績」 新たな声に見上げれば、瞳が意地悪そうな表情を浮かべ立っていた 「とりあえず、補習は免れたみたい」 平均的な数字の並ぶ通知表を思い返す 「じゃあ、海でも行かない?」 望がぐっと身を乗り出し体重をかけてくる 「つぼみさん、明日からのご予定は?」 どこか行きませんか、とばかりの、二人のにこやかな問い掛けに少し眉をしかめる 出来たばかりの友達との初めての夏休みを思えば、楽しみでない訳がないのだが… 「なんか親戚の家に行くことになったみたい」 明日からを思うと楽しみより不安がよぎる 「城山って親戚いないじゃなかったけ?」 いつから聞いていたのか、驚いたように田中君がこちらを振り返った 「えっ、あっと…うん、そう思ってたけど、ただ付き合いがなかっただけみたいで…」 「ふーん、そっかー、夏休みの間ずっとなの?」 望は何故か田中君をにやにやと見つめながら、私の頬を突く 「わからないけど、多分そうなると思う」 「まあ、そういう事ならしょうがないよねー、残念だね、田中君」 何故か嬉しそうに同意を求める瞳を軽く小突くと、苦笑しながら鞄を肩にかける田中君 「…そうだな、土産楽しみにしとくよ、城山」 整った顔が悪戯っ子のように崩れる 「土産話だけでいいかな?」 「食い物を希望、それじゃ、お先に」 「了解、またねー」 軽く手を振ってみせると、 少し肩を落としたように去って行く田中君を見送り、自分も重い腰を上げる 「かわいそうに…」 「不憫な子…」 「なにが?」 全然憐れむ気持ちのなさそうな二人の呟きに首を傾げる 「んー、いいの、いいの、さっ、うちらも帰ろ」 二人は可笑しそうに顔見合わせ私の背中を押す 「はーい」 二人に会えないのは寂しいが、初めて会う人達に浮かない顔して見せるのはいただけない さて、明日からがんばるぞー
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