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5月半ば奈々は四条通を荷車の跡につい
て、西に向かって歩いていた。
目的地は壬生村“浪士組屯所"である。
4月の終わり頃に祇園[千鳥]で真嶋圭吾
こと、佐伯又三郎に頼まれた、調査用具
一式を届ける為である。
5月11日 将軍警護の任を無事果たし、
浪士組は壬生村に戻って来ていると、京
雀の噂で聞いていた奈々は、早速(さっそ
く)用意した荷物と共に、手に提げた風呂
敷包みの中の木箱に入れた、調査用具を
届け様と出掛けて来たのであった。
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4月末、別宅でおシゲと一悶着(ひともん
ちゃく)の末、なんとか納戸(なんど)の奥
に隠してあったバッグを、受け取る事に
奈々は成功したのである。
「なぁおシゲはん、ウチが着とったモ
ン、どないならはったのかいなぁ?」
バッグを受け取りながら、奈々は思い出
した様におシゲに尋ねた。
「あないなモン、お役人の目にやて留ま
ったら、エライ事に成ってまっしゃろか
ら、燃やしたんでっせぇ!」
当然だと言わんばかりのおシゲの言葉
に、奈々は一瞬言葉を失う。
「ほな、この中のモン確かめたんや?」
気を取り直し、バッグの中に視線を落と
しながら、奈々がおシゲに尋ねる。
「そないなはしたない事、ウチはようし
まへん!」
奈々の問い掛けに、おシゲの目が微かに泳いだ。
バッグから顔を上げた奈々は、気付かぬフリをしてほくそ笑みながら頷いた。
『こりゃあ、一度バッグの中身を全部出
したなおシゲさん。
私、こんなにキチンとバッグの中、整頓
してた事無かったもん』
ここで又事を荒立てると面倒かと、おシゲの言葉を聞き流した奈々であった。
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