八幕. 初めての訪問

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5月半ば奈々は四条通を荷車の跡につい て、西に向かって歩いていた。 目的地は壬生村“浪士組屯所"である。 4月の終わり頃に祇園[千鳥]で真嶋圭吾 こと、佐伯又三郎に頼まれた、調査用具 一式を届ける為である。 5月11日 将軍警護の任を無事果たし、 浪士組は壬生村に戻って来ていると、京 雀の噂で聞いていた奈々は、早速(さっそ く)用意した荷物と共に、手に提げた風呂 敷包みの中の木箱に入れた、調査用具を 届け様と出掛けて来たのであった。 □□□ □ 4月末、別宅でおシゲと一悶着(ひともん ちゃく)の末、なんとか納戸(なんど)の奥 に隠してあったバッグを、受け取る事に 奈々は成功したのである。 「なぁおシゲはん、ウチが着とったモ ン、どないならはったのかいなぁ?」 バッグを受け取りながら、奈々は思い出 した様におシゲに尋ねた。 「あないなモン、お役人の目にやて留ま ったら、エライ事に成ってまっしゃろか ら、燃やしたんでっせぇ!」 当然だと言わんばかりのおシゲの言葉 に、奈々は一瞬言葉を失う。 「ほな、この中のモン確かめたんや?」 気を取り直し、バッグの中に視線を落と しながら、奈々がおシゲに尋ねる。 「そないなはしたない事、ウチはようし まへん!」 奈々の問い掛けに、おシゲの目が微かに泳いだ。 バッグから顔を上げた奈々は、気付かぬフリをしてほくそ笑みながら頷いた。 『こりゃあ、一度バッグの中身を全部出 したなおシゲさん。 私、こんなにキチンとバッグの中、整頓 してた事無かったもん』 ここで又事を荒立てると面倒かと、おシゲの言葉を聞き流した奈々であった。
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