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「こら又失礼さん。
そらそうどすなぁ、おシゲはんがそない
な事しはる筈、あらへんどすもんなぁ」
ちょっと悪戯心が働いて、奈々は満面の
笑顔でおシゲに言葉を返した。
「そうどすぇ」
流石長年人に仕えて来た女子(おなご)で
ある、能面の様に表情一つ変えずおシゲ
が答える。
「あんさん、“それ"くれぐれも人目に晒
(さら)しては、ならしまへんえ」
納戸の戸を閉めながら、おシゲが告げる。
「ヘーッ、肝に銘じて」
語るに落ちるとは、この事だなぁと思いながら、奈々は平然と微笑み返し、疑い深いおシゲの視線を背中に感じながら、バッグを提げて自室へ戻ったのである。
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今奈々の前を行く荷車には、醤油、酒、
味醂(みりん)、植物油、酢に今回のメイ
ンになる物に加え、玉葱、生姜と言った
物から、特注でこしらえた鉄板とブロッ
クの様な物までが積み込まれている。
真嶋圭吾と再会を果たした2日後には、
それらの物を奈々は各方面へ、発注していたのである。
その荷物を満載した荷車を引いているの
は、菱屋の丁稚(でっち)の藤吉であっ
た。
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