八幕. 初めての訪問

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「こら又失礼さん。 そらそうどすなぁ、おシゲはんがそない   な事しはる筈、あらへんどすもんなぁ」 ちょっと悪戯心が働いて、奈々は満面の 笑顔でおシゲに言葉を返した。 「そうどすぇ」 流石長年人に仕えて来た女子(おなご)で ある、能面の様に表情一つ変えずおシゲ が答える。 「あんさん、“それ"くれぐれも人目に晒 (さら)しては、ならしまへんえ」 納戸の戸を閉めながら、おシゲが告げる。 「ヘーッ、肝に銘じて」 語るに落ちるとは、この事だなぁと思いながら、奈々は平然と微笑み返し、疑い深いおシゲの視線を背中に感じながら、バッグを提げて自室へ戻ったのである。 □ □□□□ 今奈々の前を行く荷車には、醤油、酒、 味醂(みりん)、植物油、酢に今回のメイ ンになる物に加え、玉葱、生姜と言った 物から、特注でこしらえた鉄板とブロッ クの様な物までが積み込まれている。 真嶋圭吾と再会を果たした2日後には、 それらの物を奈々は各方面へ、発注していたのである。 その荷物を満載した荷車を引いているの は、菱屋の丁稚(でっち)の藤吉であっ た。  
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