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「ちょい、荷物降ろすの待ってね」
八木邸門前の手前の路脇で、引いて来た
荷車を止めた藤吉に、奈々は声を掛け、
1人八木邸の門に足を運び、不思議と静まり返る門内を窺(うかが)う。
『あれっ?やけに静かだなぁ?』
耳を澄ませてみても、奈々の元に人気が
有るような様子が、伝わって来ない。
「あのぉー、ごめんやす(ごめんくださ
い)。
どなたか居(お)られまへんどす?」
門を潜り、邸内に勝手に入って行く訳にも行かず、門前から奈々は中へ少し声を張り上げ、呼び掛けてみた。
しかし、声を張り上げた甲斐も無く、八
木邸内から返って来る応えも無い。
荷車の傍(かたわ)らで、心配気に奈々を
見ている藤吉へ、困った表情の奈々が視
線を向けた。
「折角来やはったのに
どないしょ?」
奈々に問い掛けられた藤吉は、応え様も
無く下を向いてしまう。
奈々はその様子に小さくため息をつた。
「どうかされましたか、
浪士組に何か御用でも?」
背後で不意に湧いた声に奈々は驚き、慌
てて振り返った。
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