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「先輩、オレ、好きな人がいるんです」
「…………何でそれを俺に言う」
「言いたくなってしまいました」
「失せろ」
野良犬を払うような仕種でそう言えば、米倉は困ったように笑う。
ああ、カッコイイな、馬鹿。
同じバスケ部で後輩の米倉。
人当たりがよく人気者。
そして俺は、そんな米倉が好きだったりする。
最初は意味がわからなかったけど、自覚してしまえば米倉ばかり意識して馬鹿みたいだ。
相手は同性なのに、とか。
誰に言うつもりもなかったけど、そんな矢先に米倉自身から好きな奴いるとか言われて、何て答えてやれば良いのかわからない。
米倉を(無理矢理)無視して、シュート練に戻る。
「先輩は、好きな人、いないんですか?」
「お前と恋ばなする気ねぇよ、男同士でキモい。黙って練習しろ。自主練する気ないなら帰れ」
「今時男子は恋ばなくらいしますよ」
「生憎、俺は今時男子じゃないみたいだな」
あぁ、くそ。
気が散って全然入らない。
米倉の好きな奴って誰なんだよ。気になって集中出来ない。ムカつく。
外れたボールを米倉が拾って俺にパスする。
あぁ、何でそれだけで意識するんだよ。俺キモい。
「先輩。今日、何か不調ですね。具合でも悪いですか?」
「別に」
「でも、機嫌悪そうですから」
「うっせぇ。別に具合も機嫌も悪くねぇっての」
「……悪いじゃないですか」
思い切り睨みつければ、米倉は困った風に苦笑する。
それがあまりにも似合いすぎて、かっこよくて、ムカつく。
何で俺ばっか意識しなきゃならないんだよ。
「練習、する気ないなら帰れって」
「ありますよ。でも、今は先輩と二人っきりだから、少し話したいなぁって」
「…………」
何その口説き文句。
そう、今は俺と米倉だけ。
すげぇ嬉しいけど、ボロが出そうで嫌だ。
絶対意識するし、落ち着かない。
「先輩のシュートのフォーム、綺麗ですよね」
「褒めても何にも出ねぇよ」
「えー、それは残念」
そうやって笑う米倉。
ダメだ、俺はこいつが好きだ。
そうやって笑うとことかすげぇ好き。ムカつく。
「あ、先輩。オレと勝負しません?」
「は?」
「シュート、5本中多く入った方の言うこと何でも聞く。なんてどうです?」
「さっき俺が不調とかどうとか言ってたくせに」
「あはは」
でも、何でも、か。
俺が勝って、付き合え、って言ったら付き合うのかよ?
いや、それはねぇな。
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