君を意識する

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ボールを1つ持って、床に叩く。 「俺が勝ったらパシリとして使ってやるよ。休み時間毎にジュース買わせる」 「えー、それは嫌だな」 「何でも、なんだろ?」 休み時間毎に学年の違うお前に会いたいんだよ。 気付かなくても良いけど、それくらいの我が儘は許せ、馬鹿。 「なら、オレが勝ったら――、先輩に勝てたら言いますね」 「へー、オレに勝つ気なの?」 「先輩、今日不調ですし」 「言ってろ」 そうやって笑う米倉に無性に腹が立って、俺はボールをゴールに向けて投げた。 って、あぁ、マジ不調かよ。入らねぇし。 「先輩、不調ですね」 「うるさい」 米倉は余裕なのか、綺麗なフォームでゴールに入れる。 お前の方こそ、綺麗なフォームで入れやがって。 結局。 3本しか入らなかった俺に比べ、米倉は澄ました顔で全部入れやがった。 嫌味か。 「オレの勝ち、ですね。先輩」 「チッ」 「舌打ちしないで下さいよ。いくら不調だからって、勝負は勝負ですよ」 「何も言ってねぇだろ」 これで、米倉に会える機会はいつも通り。部活の時だけ。 なんて報われない。 「それで、先輩。オレの言うこと、聞いてもらえます?」 「パシリ? 良いぞ、ジュースくらい何本でも――」 「違いますよ」 「は、――――!?」 米倉は俺の腕を自分の方へ引き寄せ、そのまま俺に顔を近付けた。 間近に米倉の顔が。 近い近い近い。 「先輩。オレ、好きな人いるって言いましたよね」 「あ、あぁ……」 「それ、先輩ですからね?」 「は、何――、っ」 唇に軽く押し当てられた感触。 間近で笑う気配。 思考がついて来ない。 「何でも、言うこと聞いてくれるんですよね」 「お、おま」 「なら、オレと付き合って下さいね、先輩」 そうやって、俺が好きな笑いをする米倉。 馬鹿、馬鹿だ。 「!」 米倉の襟を掴んで、今度はこっちからあいつの唇を奪う。 離せば驚いたような顔をする米倉に、俺は意地悪く笑みを浮かべる。 「誰がそんなの聞くか。こっちは既にお前のことが好きなんだ、むしろ付き合え」 「――――はい!」 俺の言葉を聞いて、今まで見てきた中で一番の笑顔をする米倉。 何だよ、その笑顔が一番好きになっただろ、馬鹿。 END.
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