621人が本棚に入れています
本棚に追加
「千絵さん。気のせいか知らんが、何だかこやつらは怒っとるような…」
「怒ってるというか、殺気だってるんでしょう…」
目の前の藩士たちに聞こえないように、小声で話す二人。
できれば遺体を引き渡した後、すぐに戻りたかったが、この状況で目の前にいる長州藩士の誘いを断ったら、
(その瞬間に、首と胴が泣き別れるな…)
という雰囲気だ。
長州からすれば、一応坂本と千絵の身元の確認をする必要があった。
もしかしたらこの二人が下手人である可能性もあるからだ。
でも、それにしてはずいぶん威圧的な感じがした。
そんな事を思っていた時、ふと坂本の頭に巻かれた包帯に目がいく。
「あ゛ぁっ!!」
「どうした千絵さん?
大声で奇声なんて上げよって?」
「奇声なんて失礼なっ!
って、今はそんな事よりも!」
そこまで叫ぶと、坂本のみならず、長州藩士も突然大声をあげた千絵に注目している事に気づいた。
慌てて小声で話し始める。
「坂本さん。私たちはどうやら、下手人に思われてる可能性があります…」
「えっ?何でじゃ??」
「いや、自分の顔を鏡で見て下さいよ。
って、私もか…」
二人は昼間、お龍にボコボコにされた顔をお互いに見る。
何だかどう見ても、ついさっき殴りあいの決闘をしてきた顔にしか見えない。
「はは。それで、疑われとる訳か…」
「マズイですね…」
そのまま、意気消沈する千絵。
しかし坂本は、そんな千絵とは対照的に、この状況でも全く動じていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!