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「余裕ですね…」
「ふん。そういう千絵さんは、この前以蔵を倒した時の余裕はどこにいったんじゃ?」
「いや。そういうのは、前もって覚悟しないとできないですし…」
藩邸の一室に通され、目の前には酒肴が用意されているので、一応、もてなされてはいるようだが…
「なんか、部屋の外からの殺気がすごいんですが…」
「さすが千絵さん。気づいとったか」
二人が待たされている部屋の外には、さっきの長州藩士たちが待機している。
もし、千絵や坂本が不穏な動きを見せたらその瞬間に二人の命は儚く散っていく…
そんな雰囲気だった。
そんな中、千絵は額からの脂汗が止まらなかったが、坂本はいたって冷静にしていた。
「実はな、長州の桂さんや久坂さんとは知り合いでな。
話せば分かる筈じゃ」
不思議そうにする千絵の心を察したのか、坂本が得意げな表情で言った。
「へぇ。そうなんですか…
ってえ゛ぇっ!?」
「なんじゃ。また奇声をあげよって」
「いや、だって。
桂さんと久坂さんって…なんか、すごい幻聴が聞こえたような…」
長州の桂と久坂…桂小五郎と久坂玄瑞といえば、薩摩の西郷隆盛や大久保利通のような立場の人間。
そんな超超大物と知り合いだったとは…。
「坂本さんって、ただの剣術家じゃなかったんですね…」
それを聞いた後、何だか坂本が遠い人間に思えた。
同時に、この男も、他の維新志士と同じなのだろうか…
とも思った。
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