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(いや。でも、幕臣の勝海舟の弟子だって言ってたから、到幕派という訳でもないのかも…)
千絵の頭の中に疑問が渦巻いていた時、ようやく部屋に一人の長州藩士が入ってきた。
「大変お待たせしました。
私は長藩の吉田稔麿と申す者です。
先程はわが藩の宮原雄一の遺体を運んでくださり誠に…」
「あぁっ!
堅っ苦しい挨拶はせんでいい!
それより、聞きたい事があるんじゃろう?」
吉田の長い挨拶を途中で遮り、坂本はめんどくさそうに言った。
「あと、桂さんか久坂さんはおらんか?
土佐の坂本龍馬といえば、分かる筈じゃ」
「申し訳ありませんが、桂は江戸に公務で行っており、久坂も今日は藩邸にはおりません」
この状況でも強気な坂本に、吉田は苦笑している。
すると、坂本が何か思い出した表情をした。
「それじゃあ、土佐の中岡慎太郎っちゅうのはおらんか?
確か、脱藩した後、この長州藩邸で世話になっとると聞いたが…」
中岡慎太郎という名前が出た途端、今までポーカーフェイスだった吉田の表情が変わった。
「ほう。坂本殿は中岡さんのお知り合いでしたか。
これは失礼しました」
吉田はそう言うと、廊下の藩士を呼んで耳打ちし、耳打ちされた藩士は慌てて廊下に消えていった。
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