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「あ゛ぁっ?!
土佐の坂本龍馬じゃ!
北辰一刀流の!!」
冷ややかな目でお前誰?発言をした中岡にそう答えると、中岡はその表情をいっさい崩さず、
「そういえばそんな奴もいたな…」
と、答えた。
「それで、その坂本がどうしたんですか?」
吉田の横に座りながら尋ねる中岡。
どうやら、この場で吉田にだけは少し丁寧らしい。たぶん…
「中岡さん。実は先程、わが藩の宮原雄一が何者かに殺害された」
「宮原さんが?」
「ああ。この坂本さんたちがここまで遺体を届けてくださった。
それで、今から話を聞こうとしていたところで、君と坂本さんが知り合いだと分かって君を呼んだんだが…」
吉田の頭に、さっきの坂本と中岡のやり取りがうかぶ。
「まあ、一応知り合いのようだな」
『一応』とつけられたのが癪だったが、坂本はぐっと堪える。
坂本と千絵の命はこの時、この中岡にかかっていると言っても過言ではないからだ。
もし中岡が吉田に、坂本に対する心証を悪くするような発言をすれば、その瞬間に廊下で殺気だっている藩士がこの部屋に殺到してくるだろう。
しかし…
「本当に、この人で大丈夫なんですか?」
目の前で事の経緯を話している二人に聞かれないように、小声で坂本に話しかける。
さっきのやり取りといい、中岡と坂本はあまり大した知り合いではないように思えた。
そんな人を、この状況を打破する希望としてもいいのか…と、思った。
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