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しかし坂本は、
「大丈夫じゃ。口は悪いが、思慮深い男だからの。
ワシらが下手人でない事くらい、中岡ならすぐに分かる」
そう言って、ニッと笑った。
まあ、坂本さんがそこまで言うのなら…
と、坂本と共に中岡を信じることにする千絵。
坂本の余裕そうな態度も、千絵を納得させる要因だった。
安心して二人の会話が終わるのを待っていると、中岡の口から、
「そういえば、坂本は確か佐幕派の人間だったな」
という言葉が聞こえた。
その瞬間、吉田の表情…というか、目の色が変わった。
それまでは―中岡と坂本が知り合いだと知ってからは―、坂本の事を少しは信用していたようだが、一気に坂本に対する怒りの表情になった。
この長州藩邸で、言ってはいけない言葉の上位に入る言葉を、中岡は何の悪気もなく言ったのだった。
「おいっ!誰が佐幕派じゃ!?
ワシはただ…」
「そうそう。幕臣の勝ともつき合いがあったな…」
「何?!
あの開国主義者の奸物か!?」
「吉田さん何を言うとる!
勝先生は決して奸物じゃ…」
「あ。今、勝のことを先生づけで呼んだな」
今にも斬りかかりそうな雰囲気の吉田の横で、中岡は微笑を浮かべながら言った。
まるで、この状況を楽しんでいるかのように。
(性格悪っ!)
なんて千絵が思ってる間に、事態は悪化していく…。
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