覚悟

22/34
619人が本棚に入れています
本棚に追加
/591ページ
「そうですか。 では坂本殿ではなく、千絵殿が最初に遺体をここまで運ぼうとしたんですね」 「ああそうじゃ。 それで、自分一人で運ぶからワシには先に帰れと言うし。 全く、大した女子じゃよ」 「ほう」 中岡が武市の名前を口にしてから、吉田は先程までの殺気と警戒心はどこへやら…。 なんだか、坂本と仲良く話している。 よほど武市という男や、その名前を口にした中岡も信頼されているらしい。 「いやはや。私は別に大した事は…」 「まぁた、謙遜か。 少しは自分の自慢話くらい、したらどうじゃ?」 「……………………」 あまり誉められるのが得意ではない千絵は、にこにこしながらも、無言でお茶を濁すことにした。 坂本と吉田はさっきから、色々な話題を肴になぜか二人で酒を飲んでいる。 (めんどくさい…。いいから、早く戻りたいのに…) そんな雰囲気の中、そう思っていると、ふと坂本たちの話題が下手人の話題に切り替わった。 「しかし、宮原は藩内でもかなりの手練れだった男です。 そんな男を一刀で斬り捨てるとは…。 坂本さん、江戸で道場の塾頭まで務めたあなたなら、何か、あの剣術の心当たりはありませんか?」 そう聞かれた坂本の頭に、遺体を発見した時の千絵の言葉が浮かんだ。
/591ページ

最初のコメントを投稿しよう!