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「そうですか。
では坂本殿ではなく、千絵殿が最初に遺体をここまで運ぼうとしたんですね」
「ああそうじゃ。
それで、自分一人で運ぶからワシには先に帰れと言うし。
全く、大した女子じゃよ」
「ほう」
中岡が武市の名前を口にしてから、吉田は先程までの殺気と警戒心はどこへやら…。
なんだか、坂本と仲良く話している。
よほど武市という男や、その名前を口にした中岡も信頼されているらしい。
「いやはや。私は別に大した事は…」
「まぁた、謙遜か。
少しは自分の自慢話くらい、したらどうじゃ?」
「……………………」
あまり誉められるのが得意ではない千絵は、にこにこしながらも、無言でお茶を濁すことにした。
坂本と吉田はさっきから、色々な話題を肴になぜか二人で酒を飲んでいる。
(めんどくさい…。いいから、早く戻りたいのに…)
そんな雰囲気の中、そう思っていると、ふと坂本たちの話題が下手人の話題に切り替わった。
「しかし、宮原は藩内でもかなりの手練れだった男です。
そんな男を一刀で斬り捨てるとは…。
坂本さん、江戸で道場の塾頭まで務めたあなたなら、何か、あの剣術の心当たりはありませんか?」
そう聞かれた坂本の頭に、遺体を発見した時の千絵の言葉が浮かんだ。
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