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「おう。それは確かさつ…」
「殺人犯!!」
さの発音が聞こえた瞬間、千絵は横にいる坂本の頬を平手打ちにしながら叫んだ。
「ふごっ」
「千絵殿、一体何を?」
「いや、蚊が…蚊が坂本さんの頬に止まっていたので」
坂本を叩いた方の手をヒラヒラさせながら、そう答える千絵。
「いや。明らかに、蚊をしとめるような力ではなかったぞ…。
一体、何の恨みがあるんじゃ」
「やだなぁ。坂本さんにはいつも感謝してますよ~。
それより早く帰らないと、お龍さんが怒っちゃいますよ」
お龍の名前が出た瞬間、坂本の顔が強ばる。
「そう、じゃな…。
早く帰るか…」
そう言って、立ち上がる坂本には、今までの陽気な雰囲気が一切感じられない。
今の坂本の脳裏には、昼間の流血事件の映像が流れている。
(良かった…。これで戻れる)
とにかく、坂本が何か言う前に、千絵としては早く戻りたかった。
さっき藩邸に着く前に話した内容を、ここで話されてはマズイからだ。
(まさか、長州藩士と話す事になるとは思わなかったからなぁ…)
坂本に話した自分が馬鹿だった…。
もし、さっきの秘密同盟の事を坂本が話せば、恐らく二人は藩邸で詰問にあっていただろう。
それに、坂本はともかく、千絵が何でそんな事を知っているのか、
それを問いただされるに違いない。
そうなったら厄介なので、早く長州藩邸から出たかった。
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