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「おい」
「なんですか?」
しばらく歩いた所で、千絵たちの少し後ろを歩く中岡に呼ばれた。
「坂本はかなり酔ってるな。
ここで、こいつだけ駕篭に乗せよう」
見ると、千絵が肩を貸している坂本は、千鳥足というにはあまりにも危なっかしい足取りになっている。
「そう…ですね」
中岡が何のためにここまで来たのか、ようやく分かった。
いや、最初から予感はしていたが、それが確信に変わったといったほうが正しい。
とにかくしばらく待つと、道の向こうから駕篭屋が来た。
坂本だけを駕篭に押し込め、寺田屋に向かわせる。
駕篭に押し込められても、坂本の意識ははっきりしなかった。
「一体、坂本さんに何を飲ませたんですか?」
駕篭屋を見送りながら、振り返らずに後ろにいる中岡に聞く。
仮にも寺田屋に二週間いた身だ。
坂本があの程度で酔わないことくらいなら、千絵でも分かる。
「まさか毒なんて入れてないですよね?」
「ふん。ただの睡眠薬だよ」
千絵の問いかけに、笑って答える中岡。
中岡はさっき坂本と吉田が飲んでいた時に、2、3度程、坂本に酌をした。
その時に、どうやらそれを混ぜたらしい。
(なんでこいつはそんな物を持ってんだ…)
と、心の中でツッコんでいると、中岡が口を開く。
「お前と二人で話したくなってな」
そう言って千絵に近づく中岡。
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