621人が本棚に入れています
本棚に追加
「その前に、あなたの目的を言うのが先でしょう」
中岡が納刀した為、千絵も刀を納める。
「まあ待て。俺の質問や話を聞けば大体の事が分かるさ」
何か言おうと思ったが、これ以上何か言っても無駄だと思い、中岡の話を聞くことにした。
「まずは、お前らが運んできた宮原の事だ。
そいつの下手人が知りたい」
「さあ」
「嘘をつけ。坂本が下手人の事を言いかけた時に、お前が横から遮ったんだろうが」
(う゛…)
やはり、蚊を叩きました。だけでは、この男を騙しきれなかったらしい。
まあ、千絵にも別段薩摩人の肩をもつ理由もなかった為、ここは素直に言った。
「薩摩人ですよ。あの刀傷は、薩摩の示現流です」
「何故、そう思う?」
その問いかけに、鹿児島や福島での思い出がよみがえる。
「一度、喰らったことがあるのと、後は昔嫌というほど、示現流の犠牲になった遺体を見たからですよ。
まあ、あんな見事な斬撃が出来る流派も、そう多くはないでしょう」
「では、どうして薩摩人が長州藩士を殺す必要がある?」
「それは…」
どう答えようか一瞬迷った。しかし、ここで濁しても面倒なので、薩摩と会津が裏で手を結ぼうとしている事を話した。
千絵の答えに、普通なら驚くのだが、中岡は違った。
「ほう。やはりな…」
「へぇ。驚かないんですか?」
「まあな。今、薩摩と会津が手を組もうとしている事くらいなら、俺のところにも情報がいくつか入ってきている。
まあもっとも、誰も信じないがな」
「へぇ」
中岡の言うように、今の薩摩が長州を裏切るなど、あり得ない話だ。
多分その話をしても、大抵の志士たちは信じたりはしないだろう。
何だか意外だった。
少し前の中岡は、嫌味な奴にしか見えなかったが、意外に冷静に時勢を見ている人物だという事が分かった。
最初のコメントを投稿しよう!