覚悟

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「その前に、あなたの目的を言うのが先でしょう」 中岡が納刀した為、千絵も刀を納める。 「まあ待て。俺の質問や話を聞けば大体の事が分かるさ」 何か言おうと思ったが、これ以上何か言っても無駄だと思い、中岡の話を聞くことにした。 「まずは、お前らが運んできた宮原の事だ。 そいつの下手人が知りたい」 「さあ」 「嘘をつけ。坂本が下手人の事を言いかけた時に、お前が横から遮ったんだろうが」 (う゛…) やはり、蚊を叩きました。だけでは、この男を騙しきれなかったらしい。 まあ、千絵にも別段薩摩人の肩をもつ理由もなかった為、ここは素直に言った。 「薩摩人ですよ。あの刀傷は、薩摩の示現流です」 「何故、そう思う?」 その問いかけに、鹿児島や福島での思い出がよみがえる。 「一度、喰らったことがあるのと、後は昔嫌というほど、示現流の犠牲になった遺体を見たからですよ。 まあ、あんな見事な斬撃が出来る流派も、そう多くはないでしょう」 「では、どうして薩摩人が長州藩士を殺す必要がある?」 「それは…」 どう答えようか一瞬迷った。しかし、ここで濁しても面倒なので、薩摩と会津が裏で手を結ぼうとしている事を話した。 千絵の答えに、普通なら驚くのだが、中岡は違った。 「ほう。やはりな…」 「へぇ。驚かないんですか?」 「まあな。今、薩摩と会津が手を組もうとしている事くらいなら、俺のところにも情報がいくつか入ってきている。 まあもっとも、誰も信じないがな」 「へぇ」 中岡の言うように、今の薩摩が長州を裏切るなど、あり得ない話だ。 多分その話をしても、大抵の志士たちは信じたりはしないだろう。 何だか意外だった。 少し前の中岡は、嫌味な奴にしか見えなかったが、意外に冷静に時勢を見ている人物だという事が分かった。
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