覚悟

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「まあ、そんな事よりもだ。 お前はどうして、坂本と一緒にいる?」 中岡は、次は千絵自身の事を聞いてきた。 「坂本さんとは、何ていうか…。 路頭に迷ってる所を助けられただけです」 「本当か?」 「ええ」 千絵の答えに、中岡は残念そうな顔をした。 「嘘はついてないようだな。 まあ、密偵ならのこのこと長州藩邸まで来たりはしないか…」 「密偵?どういう事ですか?」 なんだか要領を得ない中岡が何を聞きたいのかが分からない。 千絵のそんな表情を察したのか、中岡が口を開いた。 「お前、会津人だろ?」 「………え?」 どういう事だ、と問いかける前に、中岡が話す。 「呆けるな。お前の言葉には東北訛りがあった。 それに、さっきの剣術…」 中岡は先程の、突きを左右に弾いてそのまま相手の懐に突進する、千絵の剣術のことを言った。 「京都守護職に会津が就いてから、会津人の剣客とも何度か渡り合ったことがある。 その剣客の使っていた技と、さっきのお前の技…かなり酷似していた。 確か会津の溝口派一刀流の中の技だそうだな。 それでピンときた」 たった一撃で、千絵の剣術の流派まで見極めた。 目の前にいるこの土佐人は、やはりただ者ではない。 「それじゃあ、さっきいきなり斬りかかってきたのは…」 「お前の技を見せてもらうためだよ」 岡田があの技で倒れたと聞き、中岡はすぐに会津の溝口派一刀流の流派だと分かったらしい。 しかし、他人から口で聞いただけでは確証が持てなかった為、さっきの斬りあいを演じたそうだ。
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