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土佐勤王党といえば、過激な組織で、思想が合わない連中や、幕府側の人間に多くの天誅を下した。
と、千絵は思っている。
「しかし、それも昔の話だ」
千絵の心を見透かすように、中岡が言った。
「土佐勤王党の党首、武市半平太は、天誅が時代遅れだと気づいていたんだよ」
「だったら何で、岡田以蔵があんな事を?」
「それを知りたいのなら明日、そこへ来い」
千絵の質問を遮って、中岡は微笑を浮かべながら言った。
「ただ、丹虎に来たら最後。
お前は自動的に、命知らずの志士の仲間入りだ。
もちろん、寺田屋に戻れると思うな」
「……………」
その言葉に、中岡を睨み付ける千絵。
「おい。俺は今、土佐勤王党はお前を殺そうとしてないと言っただろう」
「信用は出来ませんが」
「はぁ…。まあいい。
来るか、それとも忘れて平和な時間を過ごすか、簡単な2択だ。
好きな方を選べ。
それと…」
千絵の着物を見た中岡は、懐から紙に包まれた楕円形のものを千絵に投げ付けた。
それを右手で掴むと、少し重みを感じる。
「そんな血まみれの着物で来られたんじゃ、堪ったもんじゃないからな。
それで適当に身繕え」
見ると、どうやらそれは小判のようだ。
「じゃあな」
千絵が何かを言う前に、その場を後にする中岡。
「………嫌な奴」
千絵はそう呟き、中岡の後ろ姿をしばらく見ていた。
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